Vol.23 輝く女性

 安倍政権がにわかに女性たちを意識した政策やスローガンを掲げて、女性の活躍する新しい社会の実現を目指すと強調し始めた。表に出て活躍する女性支援をPRしようと女性閣僚を一気に5人に増してみせ、さらに上場企業に対して女性役員を増やすよう迫るなどさかんにその本気度を強調している。もちろんこれで少しでも女性を取り巻く社会環境が改善され様々な制度が整備されることになればそれはそれで結構なことである。女性に不人気と言われた政権の支持率が少し回復していると言うから女性問題を政策課題にしたことだけでも評価するという人もいるのだろう。だけど突然のこのキャンペーン、狙いは少子高齢化で顕在化した労働力不足を少しでも解消するためになんとか女性を労働市場に引っ張り出したいという下心が見え見え。なんだか「気をつけよう甘い言葉となんとかみたいで心配だ。


 「男の時代は終わった、これからは女の時代だ」と言われはじめたのは80年代のことである。「あらゆる分野で女性が大活躍、男はたじたじするばかりと開高健がどこかのコラムで書いていたのを思い出す。だが世界的に見ると日本の女性役員比率や、政治家など社会進出度は最低レベルだそうである。そこで政府はもっと増える余地があり増やさなければならないと旗を振る。もちろんあらゆる分野で活躍する女性が増えることに異論はない。そのためにこの活躍する女性たちが経験した苦労や社会的差別や偏見、不都合な制度などを取り除き、次世代の女性がより活躍しやすい社会を作ろうというのは正論だ。問題なのはいわば少数の成功エリートの女性を前面に出して働く女性の輝かしいイメージばかりを強調していることである。まさか賢い女性たちが「私も輝かしいキャリアをつかむことができるかもしれない」と安易に成功者の世界に浸ってしまうことにならないとは思うが、かつてITバブル時代にホリエモンがいわば負け組の若者たちに支持された姿を思い出す。


 これまでの労働政策をみてもはじめは良い事ばかりが強調され、後で「こんなはずではなかった」ということになった事例は多い。男女差別をなくすということで始まった男女雇用機会均等法に基づく総合職一般職の導入で新たな差別が定着し、自由な働き方ができると喧伝された契約制度や派遣労働、キャリアアップにつながると言われた転職の勧めや起業の勧め等々は結局安く使える非正規労働者を増加させて来た。今や非正労働者数が正規労働者を上回りその格差が拡大している。さらに今回「女性が輝く社会」といっている裏で配偶者控除の廃止や年功賃金の廃止、残業時間の制限撤廃の声も聞こえる。「輝く女性」の幻想をふりまいてこの競争社会に女性を引っ張り出した後には一部の成功者だけが「輝き」、競争社会に疲れた男性とともに多くの女性が疲弊する社会が待っているとしたら悲劇。

いや喜劇か。


小西洋也(こにし・ひろや)

1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。

1966(昭和41)年、海城高校卒。

1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。

現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。